BRICS+の興隆と基軸通貨ドルの終焉 ~何が円安を造ったのか~

BRICS+の興隆と基軸通貨ドルの終焉 ~何が円安を造ったのか~

2024年9月14日

福田幸成 著

令和4年2022年2月末から始まった円安傾向

ここ近年の円安ドル高傾向は、令和6年2024年1月から、さらに急性な円安ドル高に動き、7月の日銀利上げ決定(0.25%程度)まで続きました。この時期の日銀利上げが、貨幣・経済論的に全くもって愚かな政策であることはさておき、グローバリストに支配される大手マスメディアは、この動きをもって「円安は日・米の金利差が原因である。」と、概ね結論付けようとしています。

確かに、マスメディアの報道どおり、日・米の金利差が、円ドルの為替レートを構築する一部分であることは間違いありません。金利差は重要な要因の一つです。しかし、この論説では、ここ数年間の円安ドル高傾向が、「何故、今年1月に入ってから急進したのか?」という事象を説明できません。日・米に金利差があるのは今年1月に始まった話ではないからです。そこには、大手マスメディアが決して報道できない、巨大な理由が存在していると考えるべきです。

当レポートでは、日銀の利上げ決定までの円安の概要を、『BRICS+の興隆』という視点から、それを説明する少しばかりのデータを使い「金利差による為替レートの変動」以外の要因を解説いたします。

先ず、1ドル110円前後で推移していた円ドルレートが、円安に振れ出した時期を再確認しておくことが必要です。

令和2年2020年初頭より発生したコロナパンデミックという悪魔的詐欺により、世界的な実体経済の収縮が起こり、同時に金融資本による金融投機が増大したことで、翌令和3年2021年までの世界的株価上昇(パンデミック以前に戻ったともいえる。)が起こりました。この間、円ドル為替レートは小幅な値動きに終始していました。

ところが、令和4年2022年2月24日。NATOはじめとする西側諸国と、その傀儡マスメディアが「ロシアによるウクライナ侵攻」と呼ぶ(呼ばせる、或いは思い込ませる)戦乱が始まり、それによる石油・天然ガス・小麦など資源物価の高騰、同時にあらゆる先物物価の高騰が起こりました。

主要品目における名目価格の上昇により、各国は商取引における基軸通貨である米ドルを多く準備する必要に迫られ、これが同年2月末以降のドル高を呼び、更に投機目的のドル買いがこれを助長しました。これが、令和4年2022年2月末に起こった円安ドル高傾向の始まりです。

ウクライナでの戦闘開始後は、日米とも株価は低調な動きを見せており、金融資本界隈が資源物価の変動を利用した先物市場などに、投機のエネルギーをシフトしていたものと考えられます。

金融資本は投機のプロフェッショナルです。彼等は必ず「売り」と「買い」で儲けます。円安時に手にした円を使い、彼等は日本株買いに走り、令和5年2023年3月から6月にかけての日本株高を演出した後、利益確定の売り買いを繰り返し、同年末までの日本株の小幅な増減期が創られました。円ドルレートは同年11月まで円安方向に向かい、年の瀬に10円ほど戻しました。

そして、翌令和6年2024年初めから、円ドルレートは日・米など西側諸国ではない、マスメディアが決して報じない要因により、急速な円安へと進んでいったのです。その要因とは即ち、BRICSです。

ロシア特別軍事作戦の開始とBRICSの拡大

BRICSとは、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ の頭文字を取った新興国連合です。この5か国が新興国であるかどうかの議論はここでは割愛しますが、NATOなどの西側諸国(米国の冊封国である我が国は勿論西側です。)とは、国家観・宗教観、世界戦略が全く異なる成長著しいグループです。令和6年2024年1月1日、ここにサウジアラビア・イラン・アラブ首長国連邦・エジプト・エチオピアなど、原油産出国を含む5か国が加わったことは、世界の勢力均衡(バランス・オブ・パワー)における近年最大の地政経済的変化です。

数年前までのBRICSは、決して頑強とはいえない、”ゆったりとした繋がり”の印象を持つ方が多く、その頃はマスメディアもそれなりの報道をしていたと記憶しています。そのBRICSの結束を急速に強めた事件が、他でもない令和4年2022年2月24日に開始された、ロシアのウクライナ東部における『特別軍事作戦』です。このウクライナ東部での戦闘開始に、NATOはじめとする西側諸国、とりわけアメリカはすぐさま反応し、『米ドル』の市場から、”敵国”ロシアを排除したのです。アメリカ(英・米金融グローバリストとも置き換えられます。)最大の特権の一つである『基軸通貨・ドル』を文字通り武器化したのです。

SWIFTから排除され、米ドル資産を凍結されたロシアが一体どうなるのか。これを世界中が注目していましたが、結局のところ、ロシアはそれから2年半たった今でも全く弱っておらず、それどころか経済は順調に成長しています。この一連の動きを最も注視していたのが、ロシアの盟友であるBRICS諸国と、『ペトロダラー体制』(原油取引時の通貨を事実上”米ドル”に一元化する支配的世界協定)において、石油で米ドルを稼ぎ、大きな米ドル資産を持つ『原油産出国』の面々です。

原油産出国にとって、米ドル市場からの排除や、米ドル資産の凍結といったいわゆる『米ドルの武器化』は、全く他人事ではない国家の危機です。このアメリカの強権的制裁は、元々西側諸国への警戒意識が強い原油産出国にとって、基軸通貨・米ドルの支配から逃れんとする動機を醸成するには十分過ぎる出来事となりました。同様の性格を持つBRICSへの原油産出国の急接近は、当然の帰結といえるのです。

『基軸通貨・ペトロダラー』という歴史的詐欺と原油産出国の屈辱

基軸通貨は『国定信用通貨』を使った醜悪な詐欺です。これを理解するには、先ず国定信用通貨とは何なのかを理解しなければなりません。信用通貨とは、金兌換などを必要とせず、実物との交換を直接的には約束されていない通貨です。各国の自国通貨に関する法文には、概ね「この通貨は、 法定支払い手段である。」と記されており、通貨の支払いを政府が法的に認めることによって(つまり法律によって)流通するものであるとされています。

しかし、この理屈ではとても通貨の実体を理解することはできません。真っ当な貨幣論でその正体を説明すれば、「ある国家において、①通貨を納税手段として政府が法定する。②国内(領域内)に納税義務を負った十分な生産主体がある。二点が存在するとき、何の兌換券でもない通貨が国定の信用通貨として流通する。」というのが、国定信用通貨の実態です。条件①は、国定通貨が事実上の政府の負債(国定通貨の支払いによって、政府が持つ徴税権を消滅させることができる。)であることを示し、条件②は、国内(領域内)で生産される財やサービスを、国定通貨で問題なく購入できることを示しています。

実物価値など全くない紙切れ(或いは電子データ)が問題なく流通する仕組みは上記のとおりですが、条件①と②は常に補完的な関係であり、どれか一つの条件でも欠ければ、信用通貨としては成立しません。「基軸通貨は詐欺」という理由は、正にこの条件①にあります。

例えば、原則的に日本の『円』は、円による租税制度が敷かれた日本国内でのみ信用通貨として流通します。同様に、韓国の『ウォン』も、ウォンによる租税制度が敷かれた韓国国内でのみ有効な通貨です。円では韓国で納税することはできません。逆もまた然りです。円を他国で使用することもできなくはないですが、使える場所と相手を選ばなければならないでしょう。それではその通貨を「問題なく使える」とは言えません。また、国家間の貿易などでは、”外国為替”という面倒な概念が発生します。兌換券ではない国定信用通貨は、根本的に国内(領域内)でのみ有効な通貨なのです。

ところが、私たちの住む世界おいて『米ドル』は特に貿易や国際金融市場において、両替なしに何処でも使用できる”特殊な通貨”となっています。

本来、兌換券ではない信用通貨は、他国(領域外)では使えない筈です。通貨の根源的な価値はその国家のGDPに依存しますから、世界最大のGDPを擁する米ドルは、世界最大の国定信用通貨といえます。それでも、信用通貨である限り、それがいかに強大であっても、本来的にその通貨は領域外には出られないのです。

「マネーの創造者が世界を支配する。」という考え方は、少し前までは”陰謀論”として蔑まれてきましたが、現在では”単なる事実”としてある程度認知されています。

世界中の中央銀行をウォール街やシティの巨大民間銀行が所有し、世界中のグローバル企業をブラックロックやバンガードなどの巨大資産運用会社が所有し、また、何故か莫大な資金を必要とする”民主主義”という詐欺システムで政治をマネー支配し、更に、”世論”を醸成するマスメディアを彼等『マネーの創造者』が所有していることは、純然たる公開情報だからです。

この支配構造に反目する人々は、マネーの創造者達を『グローバリスト』『国際金融資本』『DSディープ・ステート』などと呼びます。反対にこれを「陰謀論」と呼ぶ人々は、未だ事実(公開情報)に触れていないか、そうでなければ金融グローバリストのスパイです。

金融グローバリストの実名やその歴史、詳細については、馬渕睦夫先生・林千勝先生らの解説にお任せするとして、通貨を支配する側にとって、「世界中で使える通貨を創造し流通させる。」ことは、世界を牛耳るうえで必要不可欠な力です。そこで彼等が誕生させたのが『基軸通貨』という歴史的詐欺システムです。

基軸通貨の系譜は、古くにスペイン・ペソがありますが、本格的な基軸通貨として流通したのは、世界初の中央銀行イングランド銀行が発行したスターリング・ポンドであり、その後は1913年のFRB設置と、翌1914年の第一次世界大戦によって世界中に流通したグリーンバック、即ち米ドルです。彼等は時々の覇権国に巣喰い、その通貨を発行する中央銀行を所有することによって、『金融グローバリスト』と呼ばれるまでに成長していきました。金融グローバリストはその財力と政治力で銀・金の鉱脈を所有し、時の覇権国通貨をその兌換券とすることで、近代まで「銀・金本位制に基づく基軸通貨体制」を創ってきました。

1971年のニクソン・ショックにより、米ドルの金兌換を停止したことで、永らく続いた兌換通貨の時代は終わりを迎えましたが、オイルショック後の1974年10月、アメリカがサウジアラビアと交わした『ワシントン・リヤド密約』によって、新たな通貨体制がスタートしたのでした。

その密約とは、サウジアラビアの安全保障と引き換えに、「石油販売をすべてドル建てとし、その貿易黒字分で米国債を購入させる。」といった内容のもので、エネルギー資産である”原油”と、信用通貨である”米ドル”を強制的に結びつける『原油・米ドル本位制』ともいえる、画期的かつ悪魔的な基軸通貨体制です。

前項で記したとおり、信用通貨に実物的価値はありません。米ドルは米財務省とFRB、またそれを所有する民間銀行のキーストロークのみで生まれます。ワシントン・リヤド密約とはつまり、通貨システムを動かす電気代と指先の労力だけで、他国のエネルギー資産を好きなだけ搾取できるという醜悪な詐欺なのです。

この密約に基づく原油取引は、サウジアラビアだけでなく、周辺の原油産出国にも瞬く間に広がり、世に『ペトロダラー体制』と呼ばれるようになりました。ペトロダラーは、更に世界中の実物取引や金融取引にも浸潤し、各国の外貨準備として元々大きなシェアを持っていた米ドルを、揺るぎない『基軸通貨』の地位に到達させました。

原油産出国はどれだけの原油を売っても、米ドルでしか支払いを受けられません。そして、原油産出国の米ドル資産(米ドルと米国債)はFRB口座に蓄財されます。(民間企業が市中銀行口座に米ドルの支払いを受けても、米ドル準備預金はFRBに蓄積されます。)原油産出国にとって、最も流動性の高い基軸通貨・米ドルを蓄財することはそれなりの利益もありますが、この体制による問題点はそれを遥かに上回ります。つまり、「国富である原油と米ドルとが直結し、アメリカの中央銀行たるFRBにそれが蓄財される体制下において、原油産出国はアメリカと本気の外交交渉などできない。という問題です。

ある原油産出国の国益がアメリカのそれと反目し、自国の国益を優先させたことでアメリカが金融制裁に踏み切ったとしたらどうなるでしょう。仮に、アメリカが得意の強権を発動し、当該国の米ドル資産を凍結でもしたら、原油産出国はひとたまりもありません。現在ロシアがやられていることと全く同じことで、有り得ない話ではないのです。もう一つ付け加えれば、ペトロダラー体制において米ドル市場から排除されるだけで、原油産出国は原油を売ることすら叶わなくなるのです!

このようにペトロダラーとは、アメリカと原油産出国との間に結ばれた”完全なる不平等条約”なのですが、マスメディアの似非解説の中には「アメリカは原油産出国に米国債を握られている。」といった論調で原油産出国の優位性を嘯く声もあります。似非解説者は、まさか本気で米国債を使った”人質外交”を、原油産出国ができるとでも思っているのでしょうか?また、何度でも述べますが、国定信用通貨に掛かる経費は電気代のみです。基より、通貨主権を有する国家は、自国通貨建て国債の元本を返済する必要などありませんし、そんな国家は存在しません。(自国の中央銀行保有分は勿論、それ以外の国債保有者への返済も事実上の借換債で賄われます。)仮に、アメリカと刺し違える覚悟で原油産出国が米国債を売りに出したとしても、FRBが高値(低金利)買いすれば済む話です。

本来、原油という国富は大きな武器であり、また強力な外交カードに成り得るものです。ペトロダラー体制による米ドル支配とは、原油産出国にとって、原油の持つ経済的パワーを丸ごと米ドルに移譲させられた屈辱的な不平等条約なのです。この体制を何とか打破しようと試みた指導者も存在しましたが、ことごとく潰されてきました。

この醜悪な制度は、その強力な仕組みから永らく存続するものと多くの人々が考えていましたが、ロシアの特別軍事作戦に端を発するBRICSの興隆によって、脆くも崩壊の途を歩み始めたのです。